漢字のとめ・はね・はらい 細かく言わない|1年生|2年生

基本漢字と部品に最初に触れる段階では、とめ・はね・はらいに注意してほしいですが、本来「とめ・はね・はらい」の処理は漢字の正誤に影響しません。漢字を覚えるのが苦手な特性がある子には特にデメリットが大きいので、漢字嫌いにさせないように、細かく指摘しすぎないことが大切です。

昔から、丁寧で美しい字を書くために「書き順(筆順)やとめ・はね・はらい」に気をつけなければならないと、細かい指導が熱心に行われてきました。

しかし、そうした指導は本当は適切ではありません。

私たちがそう言う根拠は、漢字学習の指針となる常用漢字表の前書き付表にある「字体についての解説」や「筆順」できちんと解説されています。

しかし、ほとんどの指導者はその注意喚起を意識することなく、自分たちが受けてきた漢字指導の方法を踏襲して、「とめ・はね・はらい」や「書き順」に気を付けさせるのが良い指導であると思い込んでいる傾向があります。

そのために、教科書の手本と「とめ・はね・はらい」の処理が違うとバツをして、子どもたちの学習意欲を奪い、漢字嫌いにさせる要因を多く作っていることが問題なのです。

とめ・はね・はらいについて

学校での漢字指導を改善しようと、文化庁が平成28年(2016年)2月29日に『常用漢字表の字体・字形に関する指針』を発表し、国語学習指導要領(文科省)にも明確に盛り込まれました。その内容を簡単にまとめると、次のようです。

  1. 漢字には、文字の骨組みである「字体」があり、それが合っていれば正解とする。
  2. 細かいところの形の違い「字形」はデザインの違いであり、その字形(書体・フォント)は多種多様にあって、その細かい差異で誤りとしてはいけない。
  3. 文字の表記には、印刷文字(主に明朝体やゴシック体)と手書き文字(主に楷書体や教科書体)があり、他にも字形が微妙に異なる様々な書体がある。それらを共通した字体で同じ文字であると認識する力を付けることが大事である。
  4. 学校教育で指導されるのは「教科書体」1種類であり、その細かい部分の「とめ・はね・はらい」まで忠実に再現させて正誤を付ける漢字指導は間違っている。
  5. 漢字には細かい部分の違いを許容するものが多数あり、本書では2136字全ての漢字に共通する許容項目と形が掲載されている。

以上のことが13分の動画にまとめられています。(文化庁国語施策の紹介「常用漢字表の字体・字形に関する指針」)

盲学校での漢字学習が原点であるミチムラ式漢字学習法では、これらの提言を受ける以前から漢字を構成要素(部品)に分けた見方をすることが大事であるという方針を貫いています。

漢字は本来いくつもの部品が組み合わさって作られている。

組み合わせた部品を四角い枠の中に収めようとすれば、延ばす場所がなくて、とめなくてはいけなかったり、運筆の流れから向きが変わったり、はねが生じたりすることがあります。

それらを別の形と認識するのではなく、元の形は同じであって、枠の中に入れるために形が少し変化しただけだと理解すればよいのです。

そして、部品の変化には共通点があり、最初に学習するときに変化するパターンやルールを知れば、迷わずに部品の組み合わせで漢字をとらえられるようになります。

そうすることで、一字一字をバラバラに覚えるのではなく、たくさんある漢字を有機的につなげて覚えられるようになります。

漢字テストで×をもらわないように

文化庁の指針を理解した指導および採点がが行われれば良いのですが、学校では細かい字形の差異を指導したりテストでバツを付けられる傾向がまだまだ強いです。

そのため、漢字カードと漢字eブックで示している書き方のところで、指導者が誤りだと思う傾向が強い部分に配慮して、「はねない○、○をとめて、はらわない月」のような表記をしています。

しかし、本音を言えば、細かい部分の差異は気にしなくてよいです。「右」が「石」になるような、漢字の骨組みに影響さえしなければOKです。(学校の漢字テストの採点基準が変わらない限り、声を大にして言えないことですが…)

ただ、美しく整った字を書けることも大切なので、漢字の字体を覚えてそれなりに書けるようになったら、最終的にはお手本通りに、少しずつ丁寧で整った字を書けるようにしていきましょう。

手書き文字は百人いたら百通りの個性がある

手書き文字として代表的な教科書体を習得することが理想だとは思います。

しかし、一人一人に個性があるように、手書き文字にもクセがあります。

それらを一律に排除することは、現代の風潮と逆行しています。

だから、字体さえ合っていれば正解として、漢字学習を進めてほしいです。

現代の傾向として手書き文字を書く機会は極端に減っていることも考慮する必要があります。キーボード入力やスマホのタッチ入力が当たり前の時代、ICT機器の利用を前提にした書き指導も考慮に入れるべきだと思います。

加えて、漢字学習では「読める」ことが最優先の課題なで、印刷文字も含めて様々な字形(書体・フォント)を読めることも必要です。

いずれにしても、「漢字を認識して選択できる力を育てる」ことを大事にして、読み書きの漢字学習に取り組んでもらいたいと切に願っています。

UD(ユニバーサルデザイン)フォントを活用する

ゴシック体や明朝体など、世の中には実に様々な書体(フォント)があるのは、みなさんもご存知だと思います。ちなみに、学校で漢字学習の手本とされるのは「教科書体」という特殊な書体です。さらに各教科書会社が所有するオリジナルの教科書体は基本的に門外不出、一般には入手不可能です。(その傾向も最近は少しずつ変わってきていますが)

ミチムラ式漢字カードと漢字eブックに使っているのは、UDデジタル教科書体とUD学参丸ゴシックです。UDは「ユニバーサルデザイン」の略で、多くの人が読みやすいフォントとして研究・開発されてきた書体です。

漢字のとめ・はね・はらいについては、下記の記事も参考にされてください。

漢字の「とめ・はね・はらい」どこまで気をつけるべき?

20年近く前のものですが、当時の高校生が作ったこんな作品もあります。

長野県梓川高等学校放送部作成:『漢字テストのふしぎ』(第29回東京ビデオフェスティバル「TVF2007」の大賞受賞作品)

当時の高校生たちが疑問に感じたことを、生徒目線から大人に投げかける見事な20分動画です。ずっと苦しんできた漢字学習。そろそろ改革の時がやってきたようです。

書き順(筆順)について

書き順は、文字を美しく書くために、あるいは、正確で整った字を書くために正しい書き順を身につけることが必要だと多くの人が思っているようです。

確かにそういう面もあると思いますが、本当は書き順に唯一の正解というものはありません。昔はもっと曖昧なものだったのです。

しかし、学校教育で複数の書き順があると先生たちが教えるときに困るし、教えられる方も混乱するということで、昭和33年(1958年)に『筆順指導の手引き(文部省編)』が発行され、その手引きに基づいた書き順が教科書や漢字ドリルに示されています。

書き順の大原則は、「上から下へ」「左から右へ」で、3つ以上のかたまりが組み合わさった場合は「Z型」「逆N型」です。もちろん、この基本ルールに当てはまらない漢字もありますが、そうした漢字はごく少数です。

ミチムラ式漢字学習法の基本方針

ミチムラ式漢字学習法では漢字を構成する「基本漢字」と「部品」を最初に覚える段階で、教科書通りの書き順で書ける書き方を言葉で示し、その基本漢字と部品を組み合わせる段階では書き順の大原則に従って書けるような方針で編集しています。

書道家は書いた文字を見れば書き順がわかるようですが、書道家ではない私たちは書いているときの様子を見なければ正しいとされている書き順で書いているかどうかわかりません。

また、書き順をチェックするために手元を凝視されるのは、子どもにとってはイヤなものです。見られている緊張感で負担が増して、漢字を書くのがイヤだと思われかねません。

だからこそ、新しい漢字を覚える段階では手本を見てすぐに書き始めるのではなく、まずは書き方を確認、つまり「書き方を唱える」ことを徹底するようにお願いします。

まちがった書き順で覚えていたら…

漢字を覚えるのが得意な子にはまちがった書き順を指摘したらよいでしょう。

しかし、漢字を覚えるのが苦手な子がまちがった覚え方をしていたとしても、全てを正確に直させるような指導もやめておいた方がよいと思います。

一度覚えたクセはなかなか直せないし、細かい指摘が原因で勉強嫌いになってしまう方がイヤでしょう?

「くち・口」や「くにがまえ・囗」など、多くの漢字につながる重要な部分だけ、あるいは、書かれた漢字を見た時に「おや?」と思われるような書き方(例:里を田・土で書く)だけを修正するくらいに留めたほうがよいと思います。

その他の多くの書き順は「書いてしまえば分からないから」と大目に見てあげてください。

2 COMMENTS

倉品康夫

手偏の扌の跳ねの部分が跳ねないは許容範囲ですか教えてください。謹言

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ミチムラ親子

「てへん」は、筆の運びからするとはねる方が自然ですし、はねる書き方が慣用として定着しています。しかし、とめる書き方をしても、誤りであるとまでは言えません。
文化庁文化審議会国語分科会「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」のQ&Aより抜粋。
詳しいことは下記のP110に記載がありますので、ご覧ください。
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2016022902.pdf

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