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漢字の「とめ・はね・はらい」はどこまで気をつけるべき?

 小学校での漢字学習の場面でなにかと細かく指導されがちな「とめ・はね・はらい」。学校のテストや宿題で先生から細かいチェックが入って返ってきたときに、「細かすぎる!」と憤慨したことがある人は多くいると思います。しかし、漢字の「とめ・はね・はらい」は、どこまで気を付けるべきなのでしょうか?

漢字の字体と字形

 「とめ・はね・はらい」の話を始める前に、まずは漢字の「字体」「字形」について説明します。少しややこしい話ですが、大事なところなのでお付き合いください。

 「字体」とは、漢字の骨組みのようなものを指しています。たとえば「国」と「國」は同じ「コク・くに」(字種)ですが、字体が異なります。「國」は「国」の旧字体ですね。つまり「字体」とは漢字を構成する基本的で変わらない部分のことで、抽象的な概念ともいえます。

 そして、字体(骨組)に一定のルールで装飾・デザインを施したものが書体です。いわゆるゴシック体、明朝体など、パソコンに搭載されている様々なフォントのことです。

 下図の上段と下段では、それぞれ書体は異なりますが、列の上下は同じ書体を使っています。

字体の説明

 これらに対して、「字形」とは手書きや印刷、画面に表示するなど、目に見える様々な形で表現された文字の形を指します。少しややこしくなってきましたね。書体も字形の一部と考えられなくもなさそうですが、同じ字体でも字形が異なるパターンを下図に示してみます。

字形の説明

 ちなみに、街中で見かける看板やサインには様々な書体が使われています。下の写真はすべて「注意」と書かれていますが、書体や字の太さなどがそれぞれに違っています。旧字体のような、字の骨組みが異なる字は使われていませんね。どれも「注意」です。

「注意」の文字は目立つようにゴシック体が使われることがほとんどですが、書体や太さはそれぞれ微妙に異なります。

 私たちが日常的に目にする文字や多くの人が書く文字の字体は共通している、ということをわかっていただけたでしょうか。人が書く文字には特徴があります。筆跡鑑定があるくらいですから、それぞれにクセや多少の違いがあって当然ですね。しかし、字体は共通しているのです。

道村静江

人それぞれに個性豊かな手書き文字があるように、世の中には多くの字形が存在します。
細かい部分を突き詰めていくと、4年生で習う「芽」には「芽」という異なる字体と字形の字が存在していて、画数も違います。人名に使う「斉・斎・齋」も同様です。同じ字種でもいくつかのバリエーションが存在する字はありますが、それらはレアなケースと考えればよいでしょう。

漢字の指導に使われている「教科書体」

 学校の教科書で使われているのは「教科書体」と呼ばれる特別な書体です。教科書体は、毛筆書体や手書きの楷書(かいしょ)体の要素が残っている独特な書体です。学習参考書用に作られた学参書体というフォントもあります。

 そして、学校で漢字の指導で手本とされるのは、この教科書体です。というのも、漢字は「この字を基本として指導すること」と文部科学省が示したものをベースに各教科書会社が教科書体を作っていて、先生はその教科書体をお手本として漢字を指導します。漢字ドリルにも同じく教科書体が使われています。

教科書体で書いた文章

「とめ・はね・はらい」は書体によって異なる

 いよいよ本題です。

 異なる書体で書かれた「風」という字を見てみましょう。書体によって「とめ・はね・はらい」の表現がそれぞれ微妙に異なるのがわかるでしょうか。

 ゴシック体には「はらい」がありません。「ノ・虫」の「ノ」が「一」になっている字もあれば、「ノ」と「虫」が離れている字もあります。「かぜがまえ」の最後がはねているのか、はねていないか微妙な字もあります。

異なる書体の風

 右下の書体はちょっと極端かもしれませんが、すべて「風」です。ほとんどの人が「風」と読むはずです。つまり、「とめ・はね・はらい」の表現は、書体によって異なるのです。

漢字の指導は字体(骨組)を基本とする

 上の「風」の例でいえば、左上の書体が教科書体です。学校の先生が指導する「とめ・はね・はらい」は、この教科書体が表現している「とめ・はね・はらい」を指導するケースがほとんどです。

 「とめ・はね・はらい」の違いはもちろん、くっつくべきところが少しでも離れていたり、長さが違った字を書いた宿題を提出すると、先生たちは丁寧に赤字を入れて返却します。

 そうした経験を繰り返していくうちに、なかには教科書体そっくりの字を書こうとして、教科書体特有の「筆の入り」まで表現しようとする真面目な子もいます。鉛筆で「筆の入り」を表現しようとするのは、さすがにどうでしょう。習字の時間ならまだしも、漢字の読み書きを覚えることとは、別次元の課題に取り組んでいるようです。

筆の入り

 一方で、文部科学省や文化庁の文化審議会国語分化会が報告している「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」では、教科書体を指導の基本としつつも「許容の範囲」を示しています。

許容の範囲
異なる書体とともに、手書き文字の許容の範囲も示されています。とくに「はね」は、許容される部分が多いことがわかります。

 また、資料をきちんと読み込んでいくとQ&Aに下記のようなことが明記されています。

漢字の細部のとめ、はね、はらいなどが、字体の違いに影響し、文字の判別に関わってこないのであれば、その有無によって正誤を分けることはしません。(3章Q21・78p)

常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)

手書きをすることは、身体の動きが伴う行為ですから、丁寧に書くように努めても、筆の勢いの表れや震えなどが生じるのは自然なことであり、いつも同じ形を再現するのは困難です。推奨されている字形がある場合にも、それとの一致を追求する結果、見本のとおりに書かなくては誤りであると考えたり、漢字の骨組みに関わらないような、とめ、はね、はらいといった部分の細かな違いや、僅かなずれなどまでに着目し、それらを基準に誤った字であると評価したりするようなことはやめましょう。(3章Q22・79p)

常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)

 要するに字体(骨組)が合っていれば正解、ということです。「とめ・はね・はらい」の細かい差異は、字形の違いに過ぎません。その字だと認識できればよいのですね。

 「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」の中で同様の指摘は随所に見られます。この報告の内容はPDF文書がネットで公開されていて、誰でも見ることができます。詳細が気になる方は下記のリンク先からご覧ください。全235Pと膨大な情報量ですが、冒頭でまとめられた2ページを見るだけでも勉強になります。P119以降の後半は2,136字ある常用漢字すべてにおいて許容する字形の例が紹介されています。

参考 記事のタイトル文化庁:常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)について

字体(骨組)が合っていれば正解

 2年生で習う「船」を例にあげます。先に示した「風」と同様に「とめ・はね・はらい」の表現がそれぞれ異なるのは明らかです。

 左側の「舟」の中にある「てんてん」を見てみましょう。この上下の「てんてん」の向きや線の長さをとても気にしていた先生は、上が斜めの短い点、下がたて棒になっていなければ全てバツをつけていました。しかし、書体によってはたて棒の部分が「てん」だったり、POP体などは●で表現されています。

異なる書体の船
常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)より

 4年生で習う「改」で、左側の「己」の最後がはねてあるかないかを大問題にしている先生もいました。はねてあるかないかは、字形によって様々です。はねの有無以前に、曲げる前にはねあげる書体もあります。しかし、どれも「改」です。手書き文字の許容例でもそのように示されています。

異なる書体の改
常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)より

子どもを漢字嫌いにさせない

 ここまで読んでいただいた方は、上記のような指導が間違っていることはわかっていただけると思います。もちろんその先生に悪気はありません。子どもが正しい字を書けるようにと思ってのことです。

 漢字指導に熱心な先生は「とめ・はね・はらい」など字形の違いを細かく指導する傾向にあります。しかし、細かいころを言いすぎると子どもは自分が間違っていると思うし、自信をなくしてしまいます。こうした細かい指摘や指導が子どもを漢字嫌いにさせる最大の要因なのです。

 もちろん、美しい文字を書けるのはよいことです。美しい文字を書こうと努力するのも望ましいことです。最初に覚える段階で丁寧に書くクセをつけないと、高学年になっても読みにくい字を書くようになってしまう、と心配する親心もあるでしょう。

 しかし、すべての子どもにこうした指導を行うのは果たしてどうでしょうか。すべての子どもが読み書きが得意、というわけではありません。細かく指導することで、子どものやる自信を奪ってしまっては本末転倒。漢字を覚えることと、整って読みやすい字を書くのは、本来分けて考えるべきです。

 まずは漢字を読める、そして書ける。これらをクリアしてから、次のステップとして整った読みやすい字を書けるように指導したらよいと思います。

道村静江

こうした考えに反論したい人も多くいるでしょう。しかし、子どもの自信を奪わないように、読める字が書けていたら正解とする、ほめてあげるくらいの寛容な気持ちで指導にあたってほしいと思います。

字体(骨組)はしっかり指導しましょう

 「とめ・はね・はらい」の有無で字体(骨組)が異なる字は基本的にありません。例外は「干(ほす)」と「于」だけです。これ以外にありません。

 「于」は「ウ」と読み、宇宙の「宇」に使われています。「芋・いも」にも使われています。しかし「宇」の下がはねていなくても「宇」と読めるし、違う字になってしまうことはありません。いずれにしても、「于」は常用外の漢字なので、手書き文字の場合はあまり気にする必要はないでしょう。

 一方で、「右」と「石」のように斜め線を上につき出すか、つき出さないかで違う字になってしまう例はいくつかあります。こうした字体(骨組)に影響してしまう部分は子どもにきちんと意識させて、正確に書き分けられるように指導する必要があります。

 「とめ・はね・はらい」を丁寧に指導するより、こうした字体(骨組)をきちんと書き分けられるように指導することのほうが大切です。

右と石

 手前味噌ですが、ミチムラ式漢字カードでは、こうした部分をきちんと踏まえて、「上につき出さない ノ」と大事なポイントを言葉でわかりやすく示しています。

 「とめ・はね・はらい」をうるさく言わないと主張しておきながら、「とめ・はね・はらい」をきちんと説明している字もあります。しかし、それらは基本漢字のみで、部品の組み合わせで書ける字に関しては、細かいことを表記しないようにしています。

 そのかわり、字体に影響する部分は、書くときに自分で気をつけられるように上につき出すノまでのばす、と示しています。

1年生で「木」の書き方をくわしく書き表していますが、それ以降は「木」でOKです。

漢字検定や受験はどうなのでしょう…

 とはいえ、きちんと正確に書けていないと漢字検定中学受験で減点されてしまわないか、と心配する方がいるかもしれません。なかには、そうした心配から細かく指導する例もあるでしょう。

 しかし、先に紹介した「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」のなかには下記のような記載もあります。

漢字の字体・字形についての考え方は、教育関係者が持っておくべき基礎的な国語の知識として共有されること、さらに、不特定多数の人々を対象とするような入学試験、採用試験、各種の検定試験等において、漢字の字体・字形の正誤を判断する際の統一的なよりどころとして活用されることが期待される。(1章14p)

常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)

入学試験や採用試験での漢字の書き取り問題の採点に当たって、何をその正誤の判断の根拠としているのかは、必ずしも明確にされてはいません。仮に、字体に問題がなく字形の違いによって採点された場合は、国が漢字使用の目安として示してきた考え方とは異なった基準で採点が行われていることになり、そのような場合には説明を求められます。(3章Q27・82p)

常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)

 たしかに実際の入試における採点の実態はよくわかりません。

 中学受験を目指すようなレベルや、漢字が得意な子どもには、より高いレベルを求めてもよいのかもしれません。

 しかし、漢字が苦手な子どもに「とめ・はね・はらい」を厳しく指導することは、漢字をさらに嫌いにさせる大きな要因になります。

 漢字の学習に苦労している子どもたちに「とめ・はね・はらい」をうるさく言うのはやめましょう。大事なのは字体が正確に書けているかです。

 もっと言えば、覚えた漢字が使ってある言葉を多く知ってい、そしてそれらの言葉を使えることのほうが、もっと大事です。

 いまの子どもたちが大学に進学したり、社会に出る頃には、文字を手書きする機会はきっとさらに減っているでしょう。そうしたこれからの時代に大切なのは、正確な字を書けるかということよりも、まずは読めること。そして正しい漢字を選択して使える入力できることではないでしょうか。これらのことに比べたら、漢字の「とめ・はね・はらい」を正しく書けるかどうかは大きな問題ではないはずです。

道村静江

 漢字をひたすら書いて覚えさせて、「とめ・はね・はらい」をうるさく指摘して、子どもを漢字嫌いにさせてしまうのは本当にもったいないことです。先生や保護者の方々には、子どもが言葉に興味を持ち、多くの言葉を知って使いこなせるように導いてほしいな、と強く思います。

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