子どもが勉強で鉛筆を使うデメリット

 勉強に必要な道具(ツール)といえば、まず思いつくのが紙(ノート)と鉛筆です。

 しかし、鉛筆を持って書く作業のなかに、どれだけ無駄な作業が含まれているでしょうか。集中力を途切れさせる要因がいかに多いでしょうか。そんなことを気にしたことはありますか?

鉛筆と消しゴムが覚える作業を妨げる

 黒板をノートに写したり、宿題やテスト用紙への回答など、子どもが勉強をするときに鉛筆を使う場面はとても多いです。

 とくに日本では、小学1年生からひらがな、カタカナ、そして漢字を覚える作業が始まるので、とにかく書いて書いて書きまくる、そんな学習スタイルが一般的。学習の初期段階から文字を書くために必要な練習量が他国のそれと比べても膨大です。

道村静江

 宿題の定番である漢字ドリルや計算ドリルなどは、すべて鉛筆を使う学習ですね。

 しかし、手や指先をうまく使えない子どもが多い低学年の段階では、鉛筆で書く作業が勉強の邪魔をする、子どもの集中力を妨げることがあります。

道村静江

 高学年でも、様々な特性から鉛筆を使った勉強が向いていない子どもはいます。

 まず、文字を書くことで自分の書いた文字の形やバランスに意識が向きます。とくに低学年のころは、整った文字を書けるようにと先生たちは細かく指導することが多いので、多くの子どもはとても気にしながら文字を書いています。

 そして字の正確さや、自分の書いた字が気に入らなかったり不安があったりすると、消しゴムで字を消す作業が加わります。すると、力の入れ具合や消え方が気になり、さらにノートの上に散らばる消しカスの存在も気になります。

 挙句の果てには、考えなければならないところで、持っている鉛筆が気になって持ち替える、鉛筆を回すなどの手遊びが始まります。

 そして鉛筆を机から落とす、芯が折れる、落とした鉛筆や消しゴムを拾うなど、とにかく子どもの集中力は途切れがちです。

道村静江

 こうした状況を見るたびに、考えるときに書くことは邪魔だと私は感じてしまいます。そもそも非漢字圏の国では、ひたすら書いて覚えるような勉強はあまりしません。

鉛筆を使わないで目の前のことに全集中

 上記のような手遊びをやめさせたい。鉛筆や消しゴムによってさえぎられる集中力をなんとか継続させたい。そう思ったら、子どもの顔を見て口頭で問いかける、問題を出すのが有効です。

 先生から視線を向けられたら子どもは余計な行動をストップ、言われた問題だけに集中できます。子どもの頭はフル回転を始めます。

道村静江

 某人気コミックの「全集中の…」です。ぼんやりしていた子どもの目がキラキラと輝きだし、真剣な目つきに変わっていきますよ。

 これは先生が教室で教えるときに使う方法です。緊張感が薄れる家庭では難しいかもしれませんが、学習が苦手な子どもへの個別指導には有効です。工夫次第でクラス全体に対しても効果があります。子どもは先生や大人とのやりとり、コール&レスポンスを楽しみます。

 このように口頭で問題を出すことは、計算の問題でも効果的です。細かいステップを踏みながら問いかけていくことで、考え方が誘導されて答えに結びつくので、勉強が苦手な子どもでも記憶力と集中力を鍛えることができます。

道村静江

 もちろん、授業中にこうした方法を随所に盛り込むのは、先生の負担が大きいですし、先生としての経験値も必要なので、誰でもできる方法ではないかもしれませんが。。。

10回書いても覚えられない

 そして、鉛筆を使うデメリットは漢字を覚えるときも同じです。

 漢字を写し書きするとき、目線はお手本と手元を行ったり来たり、「たて・よこ・ななめ…」と1本ずつ書き足して線の構成で漢字を捉えようとすると、漢字はよく似た形ばかりなので混乱するのは当然です。書き順も頭に残りにくいです。

何度も書かせない

 こうした漢字を書き写す作業を10回繰り返したところで、実はあまり効果がありません

 多くの子どもは10回書いてもぼんやりとしか覚えられません。そのため、細かい部分を間違える、似たような字と書き間違えるといったミスがなかなかなくなりません。つまり、工夫が足りない非効率的な覚え方なのです。

 勉強が得意な子、漢字が得意な子は、こうした作業のなかでも「前に習ったあの形だ!」と思い当たって、自然と組み合わせで捉えて覚えます。しかし、大人の導きなしにそのレベルに到達できる子どもはほんのひと握りです。

 そこで、ミチムラ式漢字学習法では漢字を唱えて覚える方法を提唱しています。漢字を覚えることと漢字を書けるようになることを直結させないで、段階を踏んで指導するのが効果的だと考えているからです。

 こうしたコンセプトをもとに、ミチムラ式漢字カードと電子書籍の「ミチムラ式漢字eブック」を製作しています。まずは新しい漢字を覚えることに集中、部品の組み合わせを唱えて漢字の書き方を確認、何度も唱えて漢字のカタチが頭に浮かぶようになったらら1回だけ書いて確認してみる、そういったステップを想定しています。

先に覚える漢字 ミチムラ式漢字カードの説明と使い方 ミチムラ式漢字eブックアイキャッチ ミチムラ式 漢字eブック(電子書籍)のご案内

 また、漢字の書き順や書き方を先生と子どもが共通の言葉で表現できるので、授業中のコール&レスポンスが可能です。もちろん家庭学習でも通用します。

 あまり意識されないことですが、漢字を書く作業と覚える作業を同時に行うことは、子どもにとっては難易度の高い作業なのです。

 とくに漢字を覚えるのが苦手、覚えられない子どもには、新しい字を覚えることに集中しやすい環境を作ってあげましょう。

道村静江

 こうしたことを配慮して、ミチムラ式漢字カードは子どもの集中力を阻害する余計な情報をできるだけ排除、シンプルな構成になるように工夫しています。

漢字を覚える作業でも鉛筆の使用は最小限に

 ここまで、勉強で鉛筆を使うことのデメリットを述べてきました。しかし、漢字の勉強で「鉛筆をまったく使わずに」というのはさすがに無理があります。

 テストでは書ける必要がありますし、紙に書かれた字が評価の対象になっている以上、最終的には書けるようになっていないと意味がありません(徐々に評価の方法も変わりつつありますが)。

 もちろん、ミチムラ式でも書けるように練習してほしい字はあります。しかし、それらは低学年に多く登場する(象形文字などの)部品に分解できない基本漢字と、漢字に繰り返し使われている部品(パーツ)だけです。


 上記の基本漢字と部品の数はすべて合わせて240字です(1年50字、2年74字、3年63字、4年24字、5年17字、6年12字)。240字は小学校で習う1,026字の23%しかありません。

 中学校ではさらに28字(基本漢字8字+部品20字)が加わりますが、その数は中学で習う1,110字のわずか2.5%にすぎません。。

 つまり小中学校で習う全常用漢字2,136字のうち、書けるように練習する必要があるのは12.5%しかありません。


 下の表は、左側が小学校で習うすべての漢字、右側が各学年で覚えてほしい基本漢字と部品です。書けるように練習する必要のある字がそれだけ少なくなるか一目瞭然です。しかも4年生以降は、その数がグッと減りますね。

 つまり、1~3年生で習う基本的な漢字を書けるようになっていれば、4年生以降に習う漢字のほとんどが簡単に覚えられて、何度も書く練習をしなくても部品の組み合わせで簡単に書けるようになるということです。

 漢字を書く練習量がそっくりそのまま削減されるわけではありません。しかし、この考え方なら書いて覚える量をかなり削減できることは、なんとなくおわかりいただけると思います。

 書けるように練習する基本漢字でも、書き方を唱えて全体像を把握、口に出しながら書いてみると、手本を見ながら書いたり、薄墨の上をなぞって書いたりするよりも子どもの頭の中が整理されて書きやすくなります。

 さらに、部品の組み合わせで漢字を覚えていくと、書き始める前に字の全体像が浮かぶようになります。書きながら迷うことも少なくなるので、バランスのよい整った字を自然と書けるようになります。

部品のイメージ画像 部品(パーツ)の意味を知ると漢字が覚えやすくなる

細かいことを指摘しすぎない

 漢字を覚える作業で「とめ・はね・はらい」を細かく指摘したり、丁寧に書くように指導するのも考えものです。指先のコントロールが難しい子どもにとっては、ひたすら苦手な作業を強いられることになるからです。

 漢字を「丁寧に」書く作業が加わることで、漢字を「覚える」ことがさらに難しくなるデメリットがありますが、これについては下記の記事で詳しく書いているのでご参照ください。

漢字の「とめ・はね・はらい」どこまで気をつけるべき?

 そもそも漢字の「とめ・はね・はらい」は筆文字の要素です。鉛筆でそれを表現するのは困難ですし、あまり意味がありません。

道村静江

 丁寧に字を書くことを楽しめればよいのですが、強制になってしまうのはよくありません。

漢字の書き指導はスモールステップで

 そこで、漢字を覚えて書けるようになるまでの作業を下記の3ステップに分けてみました。


STEP.1
漢字の読み方と書き方を覚える
 読み方と書き方を別々に覚えてはいけません。一緒に唱えてセットで覚えます。部品の組み合わせで漢字を識別できるようになって読めることが最初の一歩です。

STEP.2
書けるようになる
 部品の組み合わせで漢字をかたまりごとに書けるようになりましょう。1本ずつ線の足し算はNGです。まずは字の骨組みをしっかりと書けることが大切。そして「とめ・はね・はらい」をうるさく指導しません。子どもによっては、細かく指導しすぎることで漢字学習を嫌いになってしまうことがあります。

STEP.3
読みやすい整った字を心がける
 相手が読みやすい整った字を書けるようになるのは最後のステップです。部品の組み合わせで字体(字の骨組み)を正確に書き分けられるようになってから意識すればよいでしょう。

 広く一般的に行われている漢字学習では、これら3つのステップを同時消化している傾向があります。

 実際に私たちをはじめ、ほとんどの日本人は子どもの頃から漢字をひたすら書いて覚えてきました。「漢字を覚える=漢字を書く」が刷り込まれていると思います。

 しかし、とくに特性があって、漢字が苦手、覚えられない子どもには、最初から欲張らずに上記のようなスモールステップで導くのがよいです。

漢字が苦手・覚えられない子どもへの支援とサポート方法

鉛筆は書きやすい筆記具ではありません

 数ある筆記具のなかでも鉛筆は書きにくい道具のひとつです(筆よりは便利ですが)。

 そもそも鉛筆は軽すぎるので筆圧を加えないと書けません。鉛筆の硬さは様々ありますが、指先の力をコントロールするのが難しい子どもや低学年では2Bをオススメされていることが多いと思います。

 しかし、2B以上の鉛筆のデメリットは書いた字を消すと紙が黒くなったり、跡が残ったりすることです。それらが気になって力を入れて消そうとすると紙がくしゃくしゃになったりもするので、気になることが増えて目の前のことに集中できなくなります。

道村静江

 一方で、高学年になると2B鉛筆は嫌がられます。うすくて細い字を書きたがり、学校で使用禁止とされているシャープペンシルをこっそり使っていますね。

 今の時代、シャープペンシルは当たり前の筆記具ですが、学校では鉛筆の持ち方、筆圧、3本指での細かなペン先の動かし方を指導する必要があるので、まずは鉛筆を使うのが基本とされているのでしょう。

 こうした観点から、消しゴムも含めて鉛筆は決して扱いやすい筆記具とはいえません。実際に、手が疲れずに書きやすい道具を選べ、と言われて鉛筆を選択する大人はほとんどいないのではないでしょうか。

道村静江

 近年のボールペンの書きやすさ、滑らかさの進化はスゴいですね。

 あまり意識されないことですが、学習用ノートなどに使われる安価な紙は平滑性が低いこともあり、決して書きやすい紙とは言えません(紙質は年々進化してよくなっています)。しかし、書きやすい紙は高価なものがほとんどなので、子どもの勉強に使うのは適しませんが。。。

鉛筆の代替ツールを検討・導入しよう

 学校などで、公平性を理由に鉛筆以外の筆記具を一律に禁止するのも考えものです。鉛筆を使った学習にストレスや困難さを抱えている子どもには相応のサポートが必要だと思うからです。

 たとえば0.9mmの太めのシャーペンを使ってもよいでしょう。場合によっては筆圧をかけずに滑らかに書けるボールペンや水性のサインペンを使ってみるのもありだと思います。

 さらに、タブレットでの学習を導入して文字を書く作業を軽減することを考えてみてもよいと思います。書字に困難さをもつ子どもがiPadなどのタブレットやタッチペンなどを活用して、学習がみるみる復活している事例はとても多いです。

 子どもが勉強に困っているという問題に直面している場合は、勉強で鉛筆を使うのが当たり前、という固定観念を捨ててみましょう。そして困難さを軽減できるツールがあるなら積極的に活用してみる、ことをぜひ考えてみてください。

2 COMMENTS

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です